Research


1 細胞増殖因子について
2 EGFファミリーの増殖因子と膜結合型増殖因子
3 HB-EGFについて
4 発生過程や成体におけるHB-EGFの役割
5 膜型から分泌型への転換の重要性
6 膜型から分泌型への転換機構
7 HB-EGFとがん
8 膜型HB-EGFと複合体を形成する分子群の解析
9 CD9およびテトラスパニンファミリー分子の解析
10 線虫を用いたテトラスパニンの遺伝学的解析
11 ジフテリア毒素とジフテリア毒素レセプター
12 HB-EGFを分子標的とした抗癌剤の開発GrowthFactor.htmlEGFfamily.htmlEGFfamily.htmlHB-EGF.htmlHB-EGFinvivo.htmlHB-EGFinvivo.htmlSheddinginvivo.htmlSheddinginvivo.htmlEctodomainShedding.htmlEctodomainShedding.htmlHB-EGFcomplex.htmlHB-EGFcomplex.htmlTetraspanins.htmlTetraspanins.htmlC.elegansTSP-15.htmlC.elegansTSP-15.htmlDiphtheriaToxin.htmlDiphtheriaToxin.htmlCRM197.htmlCRM197.htmlshapeimage_3_link_0shapeimage_3_link_1shapeimage_3_link_2shapeimage_3_link_3shapeimage_3_link_4shapeimage_3_link_5shapeimage_3_link_6shapeimage_3_link_7shapeimage_3_link_8shapeimage_3_link_9shapeimage_3_link_10shapeimage_3_link_11shapeimage_3_link_12shapeimage_3_link_13shapeimage_3_link_14shapeimage_3_link_15shapeimage_3_link_16shapeimage_3_link_17shapeimage_3_link_18shapeimage_3_link_19shapeimage_3_link_20
  1. 箇条書き項目 7. HB-EGFとがん


 EGFファミリーの増殖因子が細胞のがん化やがん細胞の増殖と深く関わっていることはよく知られています。実際、近年開発されているがん治療薬にはEGFリセプター (EGFR) やErbB2(EGFRと同じEGFリセプターファミリーに属する分子)を標的にしたものが多く、その効果に大きな注目が集まっています。
 EGFRに結合し、EGFRを活性化する増殖因子(リガンド)には、EGF, TGFalpha, Amphiregulin, HB-EGF, Betacellulin, Epiregulin, Epigen の7種類があります。それでは、がん化の過程で中心的役割を果たしているEGFRリガンドは何でしょうか?

 私たちが、ヒト卵巣癌における EGFRリガンドの遺伝子発現レベルをリアルタイム PCRで測定したところ、HB-EGFの発現レベルが圧倒的に高いことがわかりました。なんと HB-EGFの発現量は、 TGFalphaの約1,000倍、 Amphiregulinや Epiregulinの約100倍量もありました。EGFや Betacellulinの場合は、同じ条件ではほとんど測定することもできないほどの低レベルでした。さらに、 HB-EGFの場合、癌組織では正常卵巣に比べて有意に発現レベルが上がっていましたが、他の EGFRリガンドではその様な上昇が認められませんでした。このことから、卵巣癌において HB-EGFは EGFRリガンドの中でもとりわけ重要な因子であるという事実が浮かび上がってきました。

 上記の発見をもとに、私たちはヒト卵巣癌細胞の腫瘍形成に果たす HB-EGFの役割を詳しく検討しました。その結果、卵巣癌細胞に HB-EGFを過剰に発現させると腫瘍の形成が著しく加速されること
(図6)、その反対に、 siRNAの手法を用いて、HB-EGFの発現を抑制すると腫瘍が形成されないこと、を見いだしました。また、 HB-EGFの細胞増殖活性を中和する働きがあるタンパク質 CRM197をマウスに投与すると、腫瘍の形成が抑制され、 HB-EGFの活性を阻害する抗体やCRM197は、卵巣癌の有望な標的治療薬の候補であることが判りました。


<図6 HB-EGFを過剰に発現した卵巣癌細胞はヌードマウス(右)に大きな腫瘍を形成しています>


 EGFRリガンドの中で、 EGFは最も有名です。 また、TGFa (Tumor Growth Factor-a)は、名前が示すように、がんに重要な EG FRリガンドとして注目されてきました。著名なEGFや TGFaの陰に隠れて、 HB-EGFを含めてその他の EGFRリガンドはこれまでそれほど大きく注目されることはありませんでした。しかし、卵巣癌の例が示すように、その状況が大きく変わってきています。どうやら卵巣癌に限らず、 HB-EGFは多くの種類のがんで、かなり重要な位置を占めているようです。また、 Amphiregulinや Epiregulinが重要な働きをしている癌細胞ありそうです。この項の最初にも述べましたが、これまでEGFRやErbB2などリセプター側が癌治療の標的として注目されてきました。しかし、例えば HB-EGFは、 EGFRだけでなく ErbB2,ErbB4を活性化することも知られていますので、卵巣癌のようなケースでは EGFRを標的とするよりも、 HB-EGFを標的とした方が良いようにも思われます。したがって、これからは HB-EGFなど EGFRのリガンドを標的とした抗癌剤も多く開発されるようになるものと考えています。



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〜研究内容の紹介・7〜